昨年から頻繁に言われる「女性の活躍推進」。
政府も「女性活躍推進法案」の成立を目指しています。
昨年は衆議院の解散で法案成立に至らなかったので、法案を再提出し、成立を図ろうとしています。
その内容は、「女性の登用に特に力を注ぐ企業に対しては国の認定制度を適用し、補助金や公共調達を増やして積極登用を促進する」というような感じです。
現在は10%程度にとどまる指導的地位(役員・管理職)に占める女性の割合を、2020年までに30%へ引き上げる目標を掲げようとしています。
こんな流れに伴い、内閣府男女共同参画局に
「すべての女性が輝く社会づくり本部」なるものも設置されています。

まあ、少子高齢化の観点だけではなく、今は女性らしさを生かした新製品・サービスの開発などプラス面の期待も大きく、「女性の活躍推進派時代の流れでもあろうかと思います。
ただ、何事もそうですが、物事を急速に変えると無理が出てくることもあるようです。
以下、東洋経済online 高城 幸司 さんの記事 「退職続出?無理な女性登用にご用心!」より抜粋
「わが社では女性役員がゼロの状態。それでも2020年までに女性役員を3人輩出したい」
と熱く語ってくれたのは、関西で製造業を営むD社長。
総合職として、新卒採用で約3割は女性を採用していますが、管理職さえわずか数人しか女性はいない状態。
それでも女性社員を指導的な立場に登用したいのは、政府方針に早く取り組んでいる姿勢を示したいから。
それだけ、世の中の動きに敏感な経営者がいるのです。
あるいは取材した情報通信系の会社では
「当社では3年以内に女性管理職の比率を3割以上に引き上げます」
との目標。
あるいは、経営会議に参加するメンバー(社外取締役、監査役含む)で2割以上は女性が占める状態にするため、ヘッドハンターに多額の費用を払って、外部からの招聘に力を入れている食品メーカーなど、活躍する女性の存在を示すための経営努力を頻繁に耳にします。
こうした女性の活躍推進に取り組む会社が増えること自体は喜ばしいこと。
ただ、取り組むスピード感が実態とマッチしていればいいのですが、その点はどうでしょうか?
あのリクルートでも、女性管理職はまだ多くない
そもそも、女性が指導的な立場で増えることには、いくつもプラスがあると言われています。
日本政策金融公庫の調査によると女性役員・管理職がいる企業ほど売り上げや収益力が高まる傾向が明らかとのこと。
特に細部に気を配るきめ細やかさを指摘する声が目立ちます。
(中略)
ただ、その比率は全体の5%前後。女性の活躍推進を上げるのは簡単ではないようです。
それだけ社内で指導的な立場で活躍する人材を育てるには時間がかかります。
仮に新卒で採用した人であれば10年近くかかります。ゆえに指導的な立場の女性を増やすと決めたとしても、成果がみえるまで何年かかるか?
政府の方針が出たからと、ほんの数年で高い数値達成を目指すのは拙速としか言えません。
ところが、経営者はせっかちなもの。
結果を早く出したいと思いがちです。
結果として目標を達成するため、「やや強引」と思われるような取り組みをしている会社もあるようです。
たとえば、管理職になりたくないと考えている女性社員に対して
「会社のために我慢して管理職になってくれ」
と懇願して、双方が気まずい状況になることも。
結局は貴重な戦力であった社員を失うハメになったケースも聞きます。
その会社には女性管理職が数人しかいなかったのですが、新卒で女性社員を3割近く採用していました。
ところが、入社8年目あたりまでに結婚、出産して退職するのが暗黙のルールになっていました。
ゆえに、女性社員は管理職にならない前提の人材を採用してきました。
いわゆるキャリア志向の女性は採用してこなかったのです。
ところが、女性の活躍推進をするため、経営陣が女性管理職を全体で2割以上に増やすことを、数値目標に掲げてしまいました。
そこで、人事部が
・入社6~7年目の女性社員
・社内評価が高い
・マネジメントに長けているという人材に対して、「女性管理職として活躍してほしい」と打診しました。
当人からすれば、晴天の霹靂。結婚して辞めることを前提に仕事を頑張ってきただけなので、管理職を目指す打診はうれしいものではありませんでした。
結果として打診された女性社員は早々に辞表を出してきました。
「私には無理です」との回答。
もし、管理職への期待がなければ、数年は活躍してくれたことでしょう。
そして、同じように打診した女性社員は大半が困惑して退職、ないしは仕事に対して意欲を下げる機会になってしまったようです。
また、別の会社では女性役員がゼロであったため、社外取締役として外部から数人の女性に要請。現在では役員会参加メンバーで2割が女性になりました。
ただ、その女性が役員会で
「私がいた前職の会社ならありえないこと。即座にルールを改訂すべき」
と会社の実情から懸け離れた意見を連発。混乱を来す状況になってしまいました。
本来であれば、外部の視点から辛口の意見をしてくれることは、社外取締役として重要な役割。ただ、現場上がりの男性役員だけで運営してきた役員会には、刺激が強すぎる面もあるようです。
当初は「女性の視点で会社を改革してほしい」と打ち出していた社長も、後悔している様子。
このように拙速に女性を指導的な立場で登用、しかも、それなりの人数を登用するとなれば、トラブルが起きる可能性があります。女性が指導的な立場で活躍できるような土壌として
・男性役員(ないしは管理職)にダイバーシティ的視点の醸成
・女性社員に対して指導的な立場になるキャリアの提示など、覚悟を決めた投資が必要です。拙速に推進せずに、時間をかけて土壌を築くべきでしょう。
本当にきっちりと女性が輝く社会を創っていくのであれば、やはり、それなりの手間暇が必要である、という事がわかる内容です。
物事で大切な事はやはり「段取り」です。
歴史やこれまでの経営者の伝記などを見ていてもわかることですが、「迅速」というのは単にスピードを上げるだけではなく、行動実施までに十分な熟慮と準備を整えた上で始めるからこそ、成立する事かと思われます。
やれ急げ、とりあえずやろう、という事も大切ですが、「人」の事だけに、相手の気持ちをおもんばかることも忘れていはいけないのかもしれませんね。